MIT発の医療データ基盤、AI研究の世界標準に
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米マサチューセッツ工科大学(MIT)などの研究者が1975年に始めた心電図データの収集が、医療データ共有の世界標準へと発展しました。この取り組みは1999年にPhysioNetとして結実し、いまや数百のデータベースを抱える世界最大級の生体・臨床データ基盤となっています。その四半世紀の歩みをまとめた論文がNature Health誌に掲載され、改めて注目を集めています。
クラウドが普及する前、医療研究者はデータの入手や共有に大きな壁を抱えていました。データは分断されて配布も難しく、研究者は自らデータを集めるしかなく、費用も比較の難しさも課題だったのです。1975年、MITとボストンのベス・イスラエル病院で不整脈を研究するチームは、心電図記録をデジタル化して広く公開する構想を掲げ、自作の計算機で10万件を超える注釈を付けていきました。
当初は十数の研究機関に届けば十分と考えられていましたが、関心は集まり続けました。磁気テープはCD-ROMやFTPサーバーへと姿を変え、現在では180か国を超える利用者が登録し、昨年だけで1万5000本以上の論文に引用されるまでになっています。集中治療の電子カルテを匿名化したMIMICなど、公開データは研究の前提を大きく変えました。
転機となったのが人工知能(AI)の台頭です。ECGの信号処理が中心だった利用者層は広がり、いまでは医療分野の機械学習やAIの研究者が最大の層を占めます。Google DeepMindの研究者は、PhysioNetとMIMICが「標準を作り、今も標準であり続けている」と述べ、過去10年の医療AIの進歩を支えた基盤だと評価しています。
運営チームは、利用者が自らの専門知識を注釈として加えられる新システムの試験導入を準備しています。研究のあり方を変えたのは、アイデアや才能ではなく「摩擦」だと関係者は指摘します。データ共有のコストを下げることが、挑戦的な研究を可能にし、科学の到達点そのものを押し広げているのです。